Aidrian Mountain Trail Method(マウンテントレイル)
山岳トレイル特化のAidrian独自メソッド。AeTベースのゾーン管理と3%理論。
概要
Aidrian Mountain Trail Methodは、Aidrianが独自に構築した統合メソッドです。科学的基盤として山岳アスリートの有酸素閾値(AeT)/無酸素閾値(AnT)に基づくゾーンシステムを採用し、ユーザー体験の面ではポラライズドトレーニングの考え方や累積標高の定量的管理など、日本のトレイルランニング文化に根付いた概念を取り入れています。これらの著者・コーチによる公認や後援はありません。
このメソッドの出発点は「有酸素欠乏度」の診断です。AeT(有酸素閾値)とAnT(無酸素閾値)のギャップを測定し、そのギャップの大きさに応じてトレーニングの優先順位が自動的に決まります。ギャップが大きいランナーは有酸素基盤の構築に時間をかけ、ギャップが小さいランナーは早期にレース特異的トレーニングに移行できます。
Theory 6(Aidrian Ultra Method)との使い分けは明確です。累積標高が少ないフラットなウルトラマラソンにはTheory 6を、山岳トレイルで累積標高が大きいレースにはこのTheory 7を適用します。Theory 6が逆順ピリオダイゼーション(スピード→エンデュランス)を採用するのに対し、Theory 7は古典的ピラミッド型(ベース→特異的)を採用しています。対象レースの特性が異なるため、この「正反対」のアプローチは矛盾しません。
ゾーン定義 -- AeT/AnTベースの5ゾーン
心拍数を主指標とし、個人のAeT(有酸素閾値)とAnT(無酸素閾値)を基準にゾーンを設定します。AeTテストが未実施の場合は、180-年齢(MAF式)をフォールバックとして使用し、段階的にテスト実施を提案します。
- Z1 Recovery -- AeT - 20bpm以下 / RPE 1-2 -- アクティブリカバリー。ハードなトレイルセッションの翌日に使用。
- Z2 Aerobic Base -- AeT ± 5bpm / RPE 3-4 -- 有酸素基盤の構築。走行の大部分を占める最重要ゾーン。山岳レースの成功はここの充実度で決まります。
- Z3 Tempo -- AeT~AnTの中間 / RPE 5-6 -- 有酸素能力の上限拡張。ポラライズドの観点からは最小化すべきゾーン(「中抜け」)。
- Z4 Threshold -- AnT ± 3bpm / RPE 7-8 -- 無酸素閾値の改善。急登インターバルやテンポランで使用。
- Z5 VO2max -- AnT + 5bpm以上 / RPE 9-10 -- 最大酸素摂取量の向上。バーティカルインターバルなど短時間の高強度ワークに適用。
フェーズ構造 -- 古典的ピラミッド型(正順)
ベースの構築から始めてレース特異的な準備に進む、安定した構造です。計画期間は16-24週間。AeT-AnTギャップに基づき、各フェーズの期間が自動調整されます。
- Phase 1: 準備期(Base Building)-- 8-12週 -- Z1-2が85%以上。有酸素基盤の構築が最優先。筋持久力(ME)ワーク(加重ハイク、急登リピート)も段階的に導入します。AeT-AnTギャップが大きいランナーほど、この期間を長く設定します。
- Phase 2: 実戦期(Race Specific)-- 6-8週 -- Z2-3主体で、レース特異的なロングトレイルラン(3-8時間)と累積標高の増加に集中。試走やコースシミュレーションも取り入れます。6時間走(月1回の時間ベースロングラン)もこの期間に配置。
- Phase 3: 調整期(Taper)-- 2-3週 -- ボリュームを50-70%に削減。短いスピードセッションで切れ味を維持しながら、蓄積した疲労を抜きます。
Aidrianでの活用
Aidrianはこのメソッドの全要素を統合し、山岳トレイルランナーの準備を科学的かつ実践的にサポートします。
- AeT/AnT段階的誘導 -- 初期はペースベースでスタートし、2-4週後に心拍参照を開始。AeTテストの実施を提案し、テスト後にゾーンを精密に更新します。
- 3%理論の自動追跡 -- 月間走行距離(m) x 0.03 = 月間目標累積標高(m)。距離と累積標高の比率を自動計算し、0.02未満で警告、0.03以上で達成、0.05超で注意(膝への過負荷)を表示します。
- 中抜けモニタリング -- 過去4週間のゾーン分布を常時表示。Z1-2が80%以上、Z3が最小化されているかを監視し、中間強度への偏りを警告します。
- 筋持久力(ME)ワークの処方 -- 加重ハイク、急登リピート、偏心筋力トレーニングを体系的にスケジュール。下り耐性の構築を科学的にサポートします。
- 累積標高の可視化 -- Growth Dashboardに月間D+(累積標高)を表示。AeT心拍推移と登坂効率(nCE)を主要指標として追跡します。
- 有酸素欠乏度の自動判定 -- AeT-AnTギャップからフェーズ配分を自動最適化。ギャップが20%以上なら準備期を延長し、10%未満なら早期に実戦期へ移行します。
おすすめ書籍
- Training for the Uphill Athlete: A Manual for Mountain Runners and Ski Mountaineers -- Steve House, Scott Johnston, Kilian Jornet著、Patagonia Books、2019年。AeT/AnTベースのゾーン管理と山岳トレーニングの科学を詳述した決定版テキスト。日本語訳『高みをめざすアップヒルアスリートのトレーニングマニュアル』(東京新聞出版局、2024年11月)あり。
- 鏑木メソッド 3%理論で走りを変える! -- 鏑木毅著、山と溪谷社、2018年。3%理論、中抜け理論、6時間走など、日本のトレイルランニング文化を体系化した実践書(日本語原著)。
- Training for the New Alpinism: A Manual for the Climber as Athlete -- Steve House, Scott Johnston著、Patagonia Books、2014年。山岳スポーツのトレーニング理論の前著(アルピニズム向け)。
参考文献
- House, S. & Johnston, S. (2019). Training for the Uphill Athlete: A Manual for Mountain Runners and Ski Mountaineers. Patagonia Books.
- Mader, A. et al. (1976). 乳酸閾値の二閾値モデル(AeT/AnT)の原型。
- Seiler, S. (2010). 低強度を主体とした持久力トレーニングの有効性に関する研究。
- Millet, G. et al. (2012). 山岳持久力スポーツにおける生理学的要求の分析。
- Aagaard, P. & Andersen, J.L. (2010). 持久力スポーツにおける筋力トレーニングの効果。筋持久力(ME)ワークの科学的根拠。